労務管理をするときに、「報酬」「給与」「賞与」「手当」と、様々な用語が出てきます。
しかし、これらの意味や違いを正確にご存じの方は少ないのではないでしょうか。
特に報酬は、法律によって定義が異なるため、わかりにくくなっています。
報酬や、給与、賞与、手当のそれぞれの違い、定義について、弁護士が分かりやすく解説します。
報酬とは?
労働における「報酬」とは、労働の対償として支払われる全てのものです。
労働法の分野では「賃金」と呼ばれ、社会保険の分野では「報酬」と呼ばれています。
労働基準法第11条では、賃金について次のように定義しています。
この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。
引用:労働基準法第11条
また、健康保険法第3条5項では、報酬について次のように定義しています。
「報酬」とは、賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのものをいう。ただし、臨時に受けるもの及び三月を超える期間ごとに受けるものは、この限りでない。
引用:健康保険法第3条5項|e-Gov法令検索
賃金とは?報酬との違いは?
賃金と報酬はどのような違いがあるのでしょうか。
まず、賃金は、労働契約があることを前提に、使用者に使用されて労働することの対価として、使用者から労働者に与えられるもののことをいいます。
一方で、報酬とは、会社法第330条では、「株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う」と定めており、民法第648条では、委任に伴い支払うものを「報酬」と規定しています。
このように、会社法では、労働者の労働の対償としての賃金と、役員に対する報酬は区別されています。
ただし、民法では、労働契約だけではなく、請負や委任で働いた対価のことも報酬と呼んでおり、雇用関係は必ずしも前提とされていません。
給与や給料と報酬との違いとは?
給与や給料の意味は厳密には異なります。
また、賞与や手当も労務管理上、区別する必要があります。
給与、給料、賞与や手当と、報酬の違いを解説します。
給与・給料・報酬はどう違う?
所得税法第28条1項では給与について次のように定義しており、給与には賞与や手当も含まれています。
給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。
引用:所得税法第28条1項|e-Gov法令検索
給料は、基本給のことを指し、手当や賞与は含みません。
例えば船員法第4条1項では、次のように、給料を
基本となるべき固定給
引用:船員法第4条1項
と定義しています。
この法律において「給料」とは、船舶所有者が船員に対し一定の金額により定期に支払う報酬のうち基本となるべき固定給をいう。
引用:船員法第4条1項|e-Gov法令検索
また、地方自治法第204条3項では、給料と手当や旅費を区別して規定されていることからも、給料には手当や旅費が含まれないことが分かります。
給料、手当及び旅費の額並びにその支給方法は、条例でこれを定めなければならない。
引用:地方自治法第204条3項|e-Gov法令検索
このように、給与は給料よりも範囲が広く考えられています。
報酬と給与はほぼ同義と考えることができ、給料は報酬や給与に含まれるものと考えられます(ただし、雇用保険法・健康保険法では報酬に、賞与は含まれません)。
(1-1)賞与とは?
賞与は給料とは異なり、事前に支給の可否や支給額が確定していません。
賞与は、夏季手当・冬季手当・決算手当・ボーナスといった名称で支給されることもあります。
労働基準法においては、支払い期日が定められておらず、臨時に支払われる労働の対価のことを「賞与」といいます(労働基準法第24条2項ただし書き)。
厚生年金保険法、健康保険法においては、「賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が労働の対償として受ける全てのもののうち、3ヶ月を超える期間ごとに支払われるもの」を賞与といいます(厚生年金保険法第3条4号、健康保険法第3条6項)。
社会保険上、年4回以上支払われるものは報酬とみなされ、賞与としては扱われません。
そのため、日本年金機構に届け出する際、年3回未満の支払いの賞与の場合は、「被保険者賞与支払届」(標準賞与額の算定基礎となる届出)を提出すればよいですが、年4回以上支払う労働の対価は、原則として「算定基礎届け」(標準報酬月額の算定基礎となる届出)の対象となります。
また、労働の対償ではない、慶弔手当(結婚祝金など)は、賞与とはみなされません。
参考:従業員に賞与を支給したときの手続き|日本年金機構
参考:算定基礎届の記入・提出ガイドブック 令和5年度|日本年金機構
(1-2)手当とは?
手当には、法律で支払いが義務付けられているものと会社ごとに任意で決めよいものとがあります。
法律で支払いが義務付けられている手当には、一定の要件を満たして残業した場合に支払われる「時間外労働手当」、「深夜労働手当」、「休日労働手当」などの割増賃金が典型例です。
会社ごとに任意に支払いを決めてよい手当には、「通勤手当」、「家族手当」、「役職手当」、「住宅手当」といったものがあります。
手当は、報酬や給与に含まれるものと考えることができます。
【まとめ】
労働基準法や健康保険法では、労働における「報酬」とは、労働の対償として支払われる全てのものと定義しています。
他方で、会社法では、労働者の労働の対償としての賃金と、役員に対する報酬は区別されています。
また、給与と給料も厳密には異なる意味であり、給与の中に、給料や賞与・手当が含まれています。
賞与は労働基準法上、臨時に支払われる労働の対価のことをいいますが、厚生年金法や健康保険法では、賞与は3ヶ月を超える間隔をあけて支払われるもののことをいいます。
手当は賞与には含まれません。
社会保険上は、年4回以上支払われると賞与ではなく報酬として扱われます。
このように報酬や賞与の定義は、法律によって異なります。
弁護士に相談に来られる方々の事案は千差万別であり、相談を受けた弁護士には事案に応じた適格な法的助言が求められます。しかしながら、単なる法的助言の提供に終始してはいけません。依頼者の方と共に事案に向き合い、できるだけ依頼者の方の利益となる解決ができないかと真撃に取り組む姿勢がなければ、弁護士は依頼者の方から信頼を得られません。私は、そうした姿勢をもってご相談を受けた事案に取り組み、皆様方のお役に立てられますよう努力する所存であります。